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福岡高等裁判所 昭和42年(ネ)297号 判決 1968年8月10日

一審原告 国鉄労働組合大分地方本部

一審被告 清末清文

主文

原判決を次のとおり変更する。

原判決別紙目録記載の建物が一審原告の所有であることを確認する。

一審原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも全部一審被告の負担とする。

事実

一審原告は「一審被告の控訴を棄却する。原判決を次のとおり変更する。原判決別紙目録記載の建物が一審原告の所有であることを確認する。一審被告は一審原告に対し右建物につき大分地方法務局昭和三三年九月二四日受付第九四五八号所有権保存登記の抹消登記手続をせよ。訴訟費用は第一、二審とも一審被告の負担とする。」との判決を求め、一審被告は「一審原告の控訴を棄却する。原判決中一審被告の敗訴部分を取消す。一審原告の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも一審原告の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張立証の関係は、次のとおり付加するほかは、原判決の事実摘示と同一であるからこれを引用する。(ただし一二枚目表七行目に「必要は」とあるのは「必要な」の誤記と認められるからそのように訂正する。)

一審原告は「一、国鉄労働組合大分地方本部は、相当数の組合員の脱退はあつたものの、それにもかゝわらず同一性を保持して現に存続している。もともと単一組合である国鉄労働組合の下部機関である大分地方本部は、その性質上、組合規約、上級機関の決議・指令指示に違反しない限度で自治が認められるにとどまり、国鉄労働組合全体の意思に反し地方本部の構成員のみの意思によつて地方本部を解散消滅ないし分離独立させることはできない。

二、労働組合の分裂というような法概念は、これを認むべき根拠も合理性も乏しい。そのような法概念を肯定すれば、流動的な集団活動の過程を、いかなる場合、いかなる時点において、いかなる基準により、集団脱退と区別して分裂を評価すべきか、またその場合何を標準にして資産負債の承継の割合を定むべきか、について多大の混乱を免れ得ず、第三者に対する関係で取引の安全は著しく阻害せられる。そればかりでなく、分裂というような法概念によつて一部組合員の意思に基く労働組合の消滅を肯定することは、労働組合の解散には組合員の四分の三以上の多数による総会の決議を要するとした労働組合法一〇条二号の強行法規に違反することともなる。

もともと右のような議論は、法人である労働組合について法律の規定によらない法人格の消滅を認め、法人でない労働組合についても解散に際し総組合員の同意によつてのみ処分し得べきその総有財産を右同意によらずして処分することを肯定するに帰し、法理上到底許さるべくもない。」と述べた。(立証省略)

理由

(一)  当裁判所の本案前の抗弁に関する判断、および本案についての(1)本件建物がもと国鉄労働組合大分地方本部の所有(構成員の総有)に属したものであること、(2)同地方本部の構成員が現在一審原告の構成員となつている者と、現在新国鉄大分地方労働組合の構成員となつている者との、二派に事実上分裂したこと、およびその前後の経過事実、(3)右新国鉄大分地方労働組合がもとの大分地方本部と同一性を保持する組合であり少くとも同地方本部から有効な大会決議により組合財産全部を承継したものであるとの一審被告の主張は採用し得ないこと、に関する判断は、原判決理由の当該部分(原判決一六枚目裏四行目から二七枚目表四行目まで)の説示と同一であるからこれを引用する。

たゞし二三枚目裏六行目「およそ」から七行目「かかわる」までの部分を「そして単一組合である国鉄労組の下部機構としてこれに包摂される大分地方本部が、組織ぐるみその団体としての同一性を保持しながら国鉄労組から離脱して別個独立の組合になるというようなことは、いかなる場合いかなる手続によつて可能であるか、一個の問題であるけれども、少くとも離脱しようとする地方本部の側の意思決定としてかゝる」と改め、二三枚目裏四、五行目および二七枚目表初行から三行目までに掲げられた排斥すべき資料にそれぞれ「当審証人木村吉満、同池辺睦男、同西林幸人の証言」を加える。

(二)  右引用にかゝる原判決理由の「三、の(二)抗弁二(組合の分裂)について」の(イ)の判断に続けて、(ロ)として次の判断を付加する。

(ロ) それゆえ、従前一個の社団としての国鉄労組大分地方本部を構成していた組合員が事実上二派に分かれ、同地方本部が集団社会現象として二個の社団に分裂したことは否定しがたいけれども、前認定の事実関係からすると、現在の国鉄労組大分地方本部(一審原告)が、大分鉄道管理局管下の国鉄労働者のうち従前から国鉄労組に属していた組合員らによつて従前からの国鉄労組規約および大分地方本部規約に基き組織運営されているもので、右にいう分裂により旧構成員および役員の多数を失つたとはいえ、解体崩壊の危機を克服し組織をたてなおして今日に至り、前後国鉄労組の地方下部組織としての同一性を保持していることは明らかというべきである。反面大分地方労組を結成した旧大分地方本部構成員は、その数が残留者をこえ全体の約三分の二に及ぶ多数に達し、且つ原審証人甲斐信一の証言によつて認められるとおり、地方本部を挙げて組織ぐるみ国鉄労組から離脱するという意図をもつて脱退届を通常の場合の提出先である地方本部でなくことさら直接本部宛に一括郵送する方法をとつているとはいうものの、前認定の事実関係に徴し、結局のところ国鉄労組の運動方針にあきたらず離脱を申し合わせて集団脱退したにとゞまるものと認めざるを得ない。

そうすると、これら脱退組合員は当然には組合財産につき持分ないし分割請求権を有するものではなく(最高裁判所昭和二七年(オ)第九六号昭和三二年一一月一四日判決参照。)、まして脱退組合員らによつて組織されたにすぎない大分地方労組が、従前国鉄労組大分地方本部の有した財産につき持分ないし分割請求権を有するものと認むべき根拠はない。

労働組合が事実上分裂したときは分裂によつて生じた各組合に組合財産につき持分ないし分割請求権を認むべきである、とする説があるけれども、労働組合も労働法上ないし一般公私法上の権利義務の集中帰属すべき法主体であつて、その性質から考えても、また労働者の団結の擁護を旨とする労働組合法の精神からしても、一般の法人ないし社団と区別し、特に労働組合にかぎつて分裂という名の無方式の法主体の分割を肯定する理由は見出しがたく、これらの説も具体的に単なる集団脱退と分裂とをいかなる点で区別し、いかなる時点をもつて分裂の効果発生時とするのか、分裂による組合財産(特に消極財産たる債務)の分割承継の関係を他の法概念との関連においてどのように構成するのか、等の諸点について明確を欠き、にわかに賛同することができない。

(三)  それゆえ従前国鉄労働組合大分地方本部の財産を構成していた本件建物は、現に同地方本部と同一性を保持する一審原告の財産(構成員の総有)であるといわなければならない。

そして一審原告のなした信託契約解除の意思表示に一審被告主張のような不適法はなく解除は有効と認められる(その理由は原判決三三枚目裏八行目から三四枚目裏初行「……当である。」までの部分の説示と同一であるからこれを引用する。)から、一審被告は右解除の結果本件建物につき所有名義を自己にとゞめておく理由を失つたものというべきである。

しかしながら、かゝる解除は将来に向つてのみその効力を生じ既往に遡らないものである(成立に争のない甲第一号証によると、一審被告に対する登記名義の信託は本件建物自体の管理処分権を伴わず、受働信託ないし名義信託と称せられるものにあたり、信託法上の信託ではないと解されるが、解除の効力については信託法六〇条の規定を類推適用すべきである。)ばかりでなく、一旦有効に登記名義が信託された以上その後に為さるべき登記はすべて受託者名義の登記を基礎とすることとなるから、解除までの間に為された登記(成立に争のない甲第三号証によれば、本件建物についてはかゝる登記として債権者大分労働金庫および国鉄労働組合に対する二個の抵当権設定登記が為されている)は解除により当然にその根拠を覆滅せしめられることはないものというべく、従つて少くともこれら抵当権設定登記の為されている本件において、一審原告は一審被告に対し信託した所有権保存登記の抹消登記手続を求めることはできないというほかはない。現に前顕甲第一号証の第五条も解除の場合は所有権移転登記手続(新受託者宛にする趣旨と解される)をすべきものとしている。

(四)  そうすると本件建物が一審原告の所有(構成員の総有)に属することを争う一審被告に対しその所有権確認を求める一審原告の請求は正当としてこれを認容すべきであるが、右抹消登記手続の請求は失当として棄却しなければならない。

よつて、一審原告および一審被告の各控訴に基き、以上と結論を異にする原判決を前記趣旨に変更し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 池畑祐治 蓑田速夫 権藤義臣)

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